ホーム導入事例トキワ精機株式会社

クラウド型生産管理ソリューションを導入して納期のピンポイント化と内示の頻繁な変動に対応

低コストの継手を開発して成長

木村 洋一社長

 フォークリフトやパワーショベルなどの産業機械・建設機械は油圧を利用してものを移動させるための作業機部分を動かす。作業機の油圧回路に用いられている部品が油圧用配管継手だ。トキワ精機は創業84年を迎えた油圧用配管継手の専門メーカーである。「上場している建設機械メーカーおよび産業機械メーカーのほとんどに直接または商社経由で製品を納入しています」と木村洋一社長は話す。

 同社の主力製品は油の経路に沿い各種機器・ホースなどをつなぎ、油を円滑に流すための「継手」。中でも取引先から高い評価を得ているのが同社が独自に開発し、特許を保有している「まるみ君」である。
L字型継手は、丸棒を鍛造でL字型に加工してから穴を開けてつくるのが一般的な製造方法。それに対してまるみ君は、初めから穴の開いたパイプをL字型に曲げる方法で製造する。パイプを材料とすることによって従来に比べて使用する原料の量を半分に抑えた。そのため、低コストで生産できる。穴開け加工がないので切削屑などのゴミを出さないこともまるみ君の特徴である。まるみ君のLCA評価を行った大手企業は、従来品に比べて二酸化炭素と窒素酸化物を21%低減できると算定。産業機械のパーツとしてまるみ君を採用した。それを契機にまるみ君はトキワ精機の主力製品に育った。

取引環境の変化に対応することが求められた

 トキワ精機が保有する製品アイテムは3,000~4,000品目で1カ月当たりで1,600種70万~75万個の生産・出荷を行っている。同社は、国内外に協力工場をもつが、生産の主力は茨城県阿見町に設立した阿見工場である。阿見工場で生産された継手は外部企業によるメッキ処理などを経て東京本社の工場に届けられる。本社工場は、受け入れた継手にナットやワッシャなどの部品を取り付けて顧客に出荷している(写真1)。

写真1 トキワ精機の東京本社工場

 油圧用配管継手メーカーとして成長を遂げてきたトキワ精機だが、近年、取引環境に変化が生じてきたという。変化の1つは、顧客の発注方法がEDIやメール、ファクス、電話、郵便と多様化していること。第2の変化はいっそうの短納期化の進行だ。しかもかんばん方式を採用する顧客が増え、納品日を指定するピンポイント納期が増加している。納期遅れに対してペナルティを課すケースも増えているという。第3の変化は、内示で伝えられる数量や納期を基に製品を生産する必要性が高まってきていることである。いったん提示された数量や納期が変更されることもめずらしくない。「内示の中身が毎週のように変わる」との名倉信一生産本部本部長は話す。取引をめぐる変化は出荷納期の遅延や顧客が求める仕様と別の仕様の製品を出荷してしまうという出荷ミスの一因となる。
 厳しさを増す取引環境の中でも、要求通りの仕様の製品を要求通りの納期に合わせて生産・納品するためには、精度の高い進捗管理が行える仕組みを構築することが欠かせない。その仕組みをつくるために同社は生産管理システムを一新しようと考えた。木村社長は「受注情報をいかにタイムリーに現場に伝えるか。その優劣が企業の優劣につながる時代に入っています。頻繁に変動する内示に対応するにはITの活用が不可欠と考えました」と話す。

 新しい生産管理システムのべースとなるパッケージソフトの選定に当たっていた木村社長にクオリカの営業担当者から1本の電話が入った。2015年10月のことだ。クオリカは大手企業のIT部門を母体とするIT企業。トキワ精機はその大手企業にも継手などを納めている。木村社長はクオリカの営業担当者から話を聞いてみると、年商が100億円規模までの中堅・中小企業を対象にしたクラウド型の生産管理ソリューションであるATOMS QUBE(アトムズキューブ)の活用を提案された。ATOMS QUBEの機能について詳細な説明を受けた名倉本部長はATOMS QUBEの機能を活用すれば同社が抱えている課題を解決できると考えた。

バーコードで高精度な進捗管理を実行

 同社は2016年4月、新・生産管理システムの導入をスムーズに進めるためにプロジェクトチームを発足させた。チームのメンバーとなったのは大卒と中途採用の社員たち。同社は長年、顧客ごとにベテランの社員を配置する担当制で業務を運用してきた。しかし属人的なノウハウに依存する仕組みでは今後の発展はないと判断した経営陣は2010年から大卒者の定期採用を始めた。新しく加わった人材が新・生産管理システム開発の力となった。
 2016年9月5日と設定した新・生産管理システムのスタートに向け同社は既存システムで利用してきたデータをATOMS QUBEに移行させる作業に取り組んだ。そのプロセスでクオリカの技術者がデータの移行方法についてアドバイスしたことにより、データの移行を円滑に進めることができたという。同社は併行して部品表の作成も進めた。トキワ精機は従来、部品表を持っていなかった。「部品表のつくり方やチューニングの方法についてクオリカの技術者に教わって部品表を作成することができた」と名倉本部長は振り返る。

 新・生産管理システムを適用したのは東京の本社工場。システム化のポイントは作業指示書や納品書などの伝票にバーコードを採用したことだ。
工場の従業員は作業指示書に表記されたバーコードをバーコードリーダーで読み取り、PC画面に作業内容を表示する。その内容に従って行った作業が終了するとバーコードリーダーを作業書のバーコードに当てる。すると作業を終了したというデータがクラウド上のサーバーに送られる。同社は、①外観検査、②カシメ加工、③梱包前検査、④出荷の各作業終了を進捗管理のマイルストーンとして設定した。各作業が終了すると、従業員はバーコード処理を行い、サーバーに終了報告データを上げる。営業担当者など他の部署の従業員も本社工場における組立工程の進捗状況をリアルタイム的に把握できる。以下、ATOMS QUBEをべースとした同社の生産の流れと新・生産管理システム導入の効果を見ていこう(図1)。

図1 トキワ精機の生産工程図

 生産の起点となるのは、受注情報をデータ化すること。受注情報はEDIやメールなどさまざまな形態で届く。EDIの場合はダイレクトに受注情報を受注データとしてシステムに取り込む。メールやファクスの場合は受注担当者が受注情報をシステムに入力してデータ化する。受注データは、現場の作業者が参照する作業指示書や納品書の基データとなる。受注データに基づいて阿見工場や協力工場で製造した継手は外注企業を経由して東京の本社工場に配送される。継手を受け入れた本社工場が初めに行うのは納品受入処理・受入検査でバーコード化により情報の迅速性と共有化が著しく向上した。
次工程はキズやバリがないかを確認する外観検査である。従来、検査担当者は検査結果をノートに手で書いて検査課に報告していた。現在、検査担当者は作業指示書に印刷されたバーコードをバーコードリーダーで読み取ってPC画面に呼び出した検査項目に基づいて検査を行っている。PC画面に表示されている検査項目にチェックを入れたり検査結果を入力したりすれば検査報告書の作成は終了する。検査報告書をサーバーに上げれば検査課はリアルタイムに検査結果を確認できる(写真2、写真3)。

写真2 作業指示書の情報をバーコードリーダーで
読み取っている
写真3 外観検査の対象を示したPC 画面
写真4 継手にナットを取り付けている

 外観検査の次の工程は、継手にナットとワッシャを装着し、装着したワッシャを継手とつなぐカシメを行うこと(写真4)。カシメ加工を終えた担当者はバーコードリーダーで作業指示書のバーコードを読み取る。その次の作業は継手にOリングを入れること。それを終えるといよいよ梱包作業に入るのだが、梱包する前に欠かせないのが、組み立てを終えた製品が顧客の仕様と合致しているかどうかを確認することである。ここでもIT が活躍する。新・生産管理システムは、間違いやすい製品の写真をPC 画面に表示する機能を持っている。梱包担当の従業員は画面に表示された仕様と製品写真と現品を照合して出荷仕様を確認する。それによって出荷仕様の誤りを防ぐ仕組みを構築したわけだ。

 出荷仕様の確認を済ませた製品は物流会社が用意する定期便に積まれる。出荷担当者は、バーコードを用いて出荷処理データをサーバーに送る。このように、組立から出荷に至る作業情報はリアルタイムにサーバーに送られる。毎日行う検査・組立の作業の進捗と結果はシステムで常時確認できる。トキワ精機はIT をべースにして高精度な進捗管理が行える仕組みを構築したのである。

内示の変動に迅速に対応して生産する仕組みを構築

 トキワ精機は今後、業務の効率化を進めていく考えだ。特に受注データの確認作業が効率化できると見ている。前述したように顧客からの内示の変更頻度が高いことが同社の悩み。内示変動が発生するたびに従来の納期と注文数量と照合し、その差=変動部分を確認することが欠かせない。従来、変動した差分の確認は人手で行っていたために多くの時間を要していたという。新しく導入した生産管理システムは、納期や注文数量などのうち変動した部分を画面にカラー表示する。内示変動による差分は視覚的に確認できる。そのため、変動した数量や納期を確認するための作業が迅速化できる。同社は、受注から生産指示に至る業務プロセスに関して7~8%の効率化が図れると期待している。

 また、新・生産管理システムは生産の平準化にも効果をもたらすと見ている。顧客が求める納期はまちまち。一方、注文は月末に集中する。納期を守るために月末に残業が発生していた。それに対して同社は人手によって平準化を図ろうと取り組んできたがうまく実行できなかったという。
 「ATOMS QUBE が持つMRP機能を活用することによって毎月コンスタントに生産することが可能になりました」と名倉本部長は話す。今後、同社は阿見工場にATOMS QUBE を導入する計画を持っている。また、無線式のバーコードリーダーの導入も検討している。仕掛品のロケーション管理の効率化に活用する意向だ。棚卸作業にも無線式バーコードリーダーを活用して棚卸しの精度向上にも取り組む計画である。生産管理の高度化に向けたトキワ精機の挑戦は続く。

(小林 秀雄)

※日刊工業新聞社発行 『工場管理 2016年11月号 vol62 No.12』 掲載記事

お客様のプロフィール

会社名
トキワ精機株式会社
所 在 地
〒143-0012 東京都大田区大森東2-14-12
設  立
1932年
従業員数
120名
事業内容
各種油圧継手・特殊車輌部品・その他機械部品の製造・販売

サービス・ソリューション