製造業 株式会社岡本製作所様
システム導入の背景と課題
システム導入の背景
建設機械、産業機械、車両などの部品の板金・プレス加工を行う岡本製作所(東京都昭島市)は、国内外にグループ企業6社および、協力企業で受注製作を行っている。生産管理システムは社内で作り込んだオリジナルシステムを長年使用してきたが、グローバル対応に向けて課題は何か考えていくと、中国工場との連携や管理も密に行っていくなど、やはりシステムをオープン化することが不可欠だと実感。クオリカの提供する「AToMsQube(アトムズキューブ)」導入を決意した。
導入前の課題
旧システムを導入したのは1990年代。そこから必要な機能を追加していき、複雑なシステムになっていった。
生産管理システムに携わる業務はマニュアルがなく各担当者任せになっており、どのように業務を行っているかは統一されていなかった。たとえば外注への発注作業や在庫管理、現場に出す日程管理表などは大部分を手作業で作成しており、人への依存度が大きかった。
なぜ業務が不統一だったか。それは同社の受発注業務の特徴にある。おもな取引先は約15社あり、それぞれに担当者がついている。取引先ごとに受発注の方式が異なったり、使っている伝票も違ったりするため、それぞれ個別に対応しなければならないのだ。15人ほどの受発注担当者はお互いがどのように仕事をしているかわからないため、担当者が不在の時に顧客から問合せが入っても答えられない。取り扱う製品は顧客ごとに異なっているが、同じような受発注作業があったとしても兼任が難しかった。大きな生産管理システムの下で業務を行ってはいるが、細かい管理はExcelやAccessを使って個別に小さなシステムのようなものを作り上げている担当者もいた。
担当者が顧客ごとに異なる作業をしてしまうことは、データが連動していないことに起因している。取引先ごとに受注、生産指示、外注手配のシステムが分かれており、さらにそれぞれ個別に在庫管理をしていたのだ。データ上の在庫と実在庫がかみ合わず、在庫が足りなかったり、なかったりする場合もたびたびあった。
また、日々の生産日程表(大日程表)の作成も手作業で行っていた。受注状況に合わせて生産管理の担当者が作業の割振りを決め、一日の作業終了後に現場から上がってきた出来高を、Excelに打ち込んで反映させる。顧客の要求などで変更があればその都度データを入れ直す必要がある。間違えが起きることも多い。オーダーは月に約10,000件、アイテムは1,700種類あり、その日々の工程管理に追われて生産管理担当者の負荷がかなり大きくなっていた。また、生産指示も工程ごとの指示となっており、現場作業者は自分が加工している製品がいつ出荷されるのかわからない状態だった。受注から出荷までのモノと情報の流れが見えていなかった。
そんな中、長年システムを作り込んできた開発担当者が退職し、システム全体がわかる人間がいなくなってしまい、メンテナンスも困難になってしまった。
システム導入までの道のり
マスターの作成
営業技術部の高野好春部長、岡本慎一代表取締役社長
営業技術部技術課の窪島奈津美氏、営業技術部の佐藤祐一次長
システム導入の検討は2011年10月より開始した。はじめに顧客からの受注データ、製品データ、在庫データなどのマスターを担当者がそれぞれ持っていたものをつなぎ合わせ、重複を削り、足りない部分を追加するところからスタート。まずは主要取引先で比較的マスターが整っていたコマツ向け製品から作成を開始し、取引先ごとに段階的にマスターを作成していった。コマツ向け製品は1カ月ほどでマスターが完成したが、もともとマスターが整備されていない取引先は3カ月ほどかかり、全体が完成するのに1年ほどを要した。
「取引先によって受注方式が違い、考え方も違います。入り口が違うものをどう統一するかが難しい部分でした」と、システム開発を担当した営業技術部技術課の窪島奈津美氏は振り返る。注文方式も、毎日内示と注文が決まって来る顧客もあれば、月に一度まとめて注文が入り、それに追加して日々の注文が来る顧客もいる。注文番号、フォーマットそのすべてに対応できるシステムを作っていく必要があった。
担当者がそれぞれ持っていた顧客別の情報を登録し、マスターを作成した後、運用テストを経て本稼働となった。導入は旧システムと並行させながら得意先別に4段階に分けて実施。はじめに取り掛かったコマツ向け製品は、およそ3カ月で本稼働を開始した。もともとマスタデータがしっかりしていた点もあったが、パッケージ型のシステムの利点も合わさって、短期導入を実現できた。
しかし、他社では情報の扱い方や形式が異なるため横展開は難しく、運用開始まで半年かかった得意先もあった。
従来のシステムの洗い直し
新システム導入に先立ち、今まで使用していたシステムの機能の洗い直しを行った。自社開発のシステムのため、機能の後付けや廃止、変更も多く部分最適になっている面もあり、使う頻度の低い機能や自分たちでもよくわからない機能なども多かった。
この洗い出し作業によって、誰も使っていない機能や、なぜやっているのかわからない作業があることが明らかになった。
「昔は何かと連動した作業だったはずが、片方を使わなくなったのに、いまだにもう一方の入力作業を行っている例などもありました。古いシステムなだけに、前の担当者から言われたことをそのままやりつづけている、ということも多かったようです。これらは新システム導入前から見直し、潰しつつありました」(窪島氏)。
その逆に、「こんな機能もあったのか」という便利な機能を使っていない場合もあった。システムを刷新しなければわからなかったことである。
在庫情報の扱いの難しさ
システム導入後に、個人の持っていた在庫情報を吸い上げてインプットしたが、システム導入前までは個人が在庫の管理を行っていたため、意識の食い違いによる混乱が起きてしまった。また発注もそれまでは手作業で行っていたのだが、システム導入後は自動発注となったため、入力情報が少しでも間違っていたり、狂っていたりすると発注されなかったり、発注しすぎてしまったり、という問題が多々発生した。
「それまでの在庫管理があいまいで、ずさんだったということがわかりました」と、営業技術部の佐藤祐一次長は振り返る。
完成在庫は正確な数が把握できるが、材料や仕掛品までを在庫と考える、ということに慣れるまでに時間がかかったという。加えて、入力した在庫情報が間違っていると、他の工程の在庫数まで連動して間違えてしまうということを理解してもらうことにも苦労した。今までは工程ごと、担当者ごと、取引先ごと、にそれぞれ在庫を管理するようになっており、情報を共有することがなかったが、システム導入後に一貫して管理するようになったため、在庫管理に対する意識を変えることが一番苦労したという。
導入の効果
情報の共有化
システム導入により情報が共有化できたことでのメリットが多く生まれた。取引先別の担当者が、お互い何をやっているか、どのような状況なのかわからないという状態から、受発注作業などを共有化できるようになったことで、作業の集約が可能になった(図3)。
また1つの画面で生産管理情報を一元管理するようになったため、欲しい情報を取得するにはどこを見ればよいかが一目でわかる。誰かに問い合わせる手間や確認時間のロスがなくなり、仕事がスムーズに流れるようになった。
在庫管理が一元化されたことで在庫がない、などのトラブルも減り、受注から加工、出荷までの流れが見える化された。「現場でも進捗状況をパソコンで確認できるので、『いつ材料が入るのか』などといった問い合わせ時間のロスが減りました。納期遵守率が93.2%からほぼ100%にまで向上したことが、この効果を物語っています」(佐藤次長)。
在庫管理とは別に動いていた作業指示書の発行も、システムと連動して発行できるようになった。図面を登録して指示書と一緒に出力することも可能になった。
部品表の統一
部品表の精度が向上したことも効果の1つである。製品1つひとつがどんな部品から構成され、どのような在庫を持つ必要があり、どんな工程を経て出荷されるのかなどは、すべての業務の基本になってくる部分である。
クラウド生産管理システムの利点
今回導入したシステムは、クラウドコンピューティング(以下クラウド)を利用したものである。自社でサーバーを持つ必要がないのでメンテナンスの必要もなく、バックアップやバージョンアップなどの管理もシステム会社に任せておくことができる。「わが社のようにシステムの専任者を置けない中小企業では、管理業務を任せられるので非常に助かっています」(窪島氏)。
また、どの場所からもシステムを参照できる利点は大きい。代行納入業者やグループ企業、協力企業に見せるメニューも限定して、自社の受注・発注状況を確認してもらえる。注文書も電子データでやり取りができる。
導入のポイント
現場で慣れてもらうために
バーコードを読み取って実績を打ち込む
導入期間を短くし、現場で早く慣れてもらうためにもともと使っていた帳票と同じフォーマットで作業指示書を作成できるようにした。これにより現場での混乱はなく、すんなり導入できた部分は大きいという。
システム導入前は日々の出来高を紙に記入し、それを管理者がまとめてシステムに打ち込み、日程管理や生産管理を行っていた。システム導入後は紙に記入していた実績をそれぞれ現場に設置されたパソコンに打ち込む作業に変更されたが、徐々に慣れて現在では難なく使いこなしている。
受発注業務担当者にはとりあえず触ってもらい、勉強会も並行して行うことで少しずつ慣れていってもらった。
パッケージ型生産管理システムではあるが、帳票類のレイアウトなどを変更するなど、自分たちである程度作り込む自由度があったことも現場導入を促進した。システムの修正などはクオリカの担当者と密に連絡を取り、細かく修正対応をしてもらったという。
トップダウンとキーマンの活躍
導入がスムーズに行えた要因として、まずトップダウンの強さが挙げられる。岡本真一社長がコマツのサプライヤーで構成される「コマツみどり会」でクオリカのシステムを知る。ちょうど旧システムの刷新を考えていたことから、すぐにシステムの導入を決定したという。
また、システム導入担当者の窪島氏の活躍も大きかったと、岡本社長は振り返る。「わかる人が社内に一人でもいることで導入が大いに進みました。システム会社に頼んでしまうような仕様変更も彼女が自分で作り込んでいったので、短期間で新システムを導入することができました。また、クオリカのきめ細かな立上げフォローがとても助かりました」。
今後の展開
社内のシステムが一元化されたことで、管理部門、現場、出荷のリアルタイムな管理を目指したいという。現在、主に使用しているのは管理部門だが、今後は現場で現品票を出力し、製品、仕掛品のバーコード管理を進めていく。現場で出来高や進捗、在庫状況を打ち込むことでタイムリーな生産管理体制と厳密な原価管理も可能になっていく見通しだ。現在、加工現場では徐々にシステムへのデータ入力が進んでいるが、出荷工程では行われていない。出荷工程でも進捗管理を入力することで、受注から出荷までの一連の流れがより見える化されていくだろう。
また、中国工場へのシステム導入も検討している。もともと中国工場では現地向け企業への製品を製造していたが、現在は日本向けの製品も増えてきている。この関係もあり、日本工場で生産を監視したり、連携を取れるシステムとして日本工場と同様のシステムを導入しようと考えたのだ。クラウドのシステムということで、中国での立ち上げも早く行え、日本での一括監視も容易であることは非常に魅力的だと岡本社長は話す。
(「工場管理」2013年7月号より引用)
クオリカ担当者が語る導入成功のポイント
アトムズ室 森本英生、高橋良幸
生産管理システムの導入・刷新にあたって重要となるのは、現場で行われている多様な業務を整理し、その中で必要な機能を見定め、その機能をどのように実現するかを明らかにすることです。
クラウドでのシステム導入はスピードやコストのメリットがありますが、従来の複雑な業務を整理せずそのまま導入しようとすると、機能が膨らみ、十分なメリットを受けられないおそれがあります。
このため、当社といたしましてもこれまでの生産管理業務のノウハウを活かし、これらの作業のお手伝いさせて頂きますが、過程をスムーズに進めるポイントとして、お客様側での推進体制が非常に重要となります。
岡本製作所様の場合、岡本社長とキーマンとなる各担当者様が導入に対して非常に強い意思をお持ちになり、また、社長自ら率先してプロジェクトの課題解決にあたって頂きました。
こういった、強いリーダーシップと強力な推進体制が成功の要因となり、一次対応(コマツ関連製品部分)についてはわずか3ヶ月での立上げが実現しています。
今後も、引き続きご期待に応えられるよう、中国へのグローバル展開など、お客様のビジネスの成長につながるご提案をさせて頂きたいと考えております。
お客様のプロフィール
- 会社名
- 株式会社岡本製作所
- 所在地
- 〒196-0003 東京都昭島市松原町2-3-21
- 設立
- 1945年
- 事業内容
- 建設機械車両、産業機械、電気機器などの金属部品製造
サービス・ソリューション
お問い合わせ先:ITサービス事業本部 製造サービス事業部 製造サービス部
TEL:03-5937-0741
FAX:03-5937-0802