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石川高専がKOM-MICSを活用し工作機械の稼働状況を見える化
機械工学の知識にデジタルスキルを掛け合わせたDX人材を育成

サマリー

 石川工業高等専門学校(石川高専)、コマツ、クオリカは、DX(デジタルトランスフォーメーション)人材の育成に関する協力関係構築に向け、3者で協定書を締結しました(3者協定)。協定に基づく具体策として、石川県の地元企業であるコマツが開発し、クオリカが企業向けに展開している、工場の生産性改善システム「KOM-MICS(コムミクス)」を機械・製造分野の授業で活用し、学生がDXに関する実践的な技術を身に付ける支援を行います。3者協定の経緯や狙い、人材育成への期待を、石川高専副校長の冨田充宏教授と、機械工学科教員の穴田賢二准教授に聞きました。

  • 石川高専、コマツ、クオリカがDX人材育成事業に関する3者協定を締結。
  • 石川高専が採択された文部科学省のDX人材育成事業の中で、コマツとクオリカが協力してKOM-MICSを提供し、生産設備の“見える化”によって学生のスキルアップを支援。
  • 生産設備の“見える化”は、石川高専機械工学科にとって長年の悲願。従来の「理論」と「作業」に「数字」が加わることで、データドリブンな学習(データを収集・分析し、さまざまな課題に対する判断や意思決定を行うことの学習)が可能に。
  • KOM-MICSで工具寿命データを確認しながら、安全とコストのバランスを考慮したものづくりを学習。
  • 育成人材の地元企業へのインターンシップや就職などを通じ、培ったDXのスキルを石川県内に広めていくことを目指す。
  • KOM-MICSなどを活用した教育プログラムを作り上げ、全国の高専に対して教育活用事例として広め、国内のDX人材育成への活用につなげることも視野に。
※1:KOM-MICSは株式会社小松製作所の登録商標です。

石川高専の取り組み

高専教育でデジタルマインドとスキルを持つ人材育成が急務
石川高専が文科省のDX人材育成事業に採択され事業開始へ

 石川工業高等専門学校(石川高専)は、独立行政法人国立高等専門学校機構を本部とし、全国に51校が設置されている国立高等専門学校(高専)の一つです。機械工学、電気工学、電子情報工学、環境都市工学、建築の5学科が設けられ、5年一貫教育で、研究開発型の技術者の育成を目標に、実験・実習を重視した専門教育を提供しています。1学年200人、総勢1000人が在籍し、卒業後は就職が62%、同校の専攻科(2年間)や国立大学などへの進学が38%を占めます。
「就職先は地元の石川県や富山県の地場企業の他、日本を代表する大企業、市役所や中央官庁など多岐にわたります。毎年、各学科に寄せられる400~600社の求人票の中から学生が選び、学校推薦と面接で就職先が決まっている状況です」と、同校副校長の冨田充宏教授は話します。
石川高専独自のカリキュラムとしては、座学と実験を授業内で同時に行う「in situ実験(その場実験)」、学生でチームを組み、ロボット製作などのプロジェクトを推進する「機械創造演習」などが挙げられます。また、高専におけるセキュリティ人材育成事業(K-SEC)の協力校に選定され、さらに、文科省が推進する「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」においても石川県内の大学に先駆けて認定校となり、情報教育を強化していることも特筆すべき点です。
 そうした中、近年、石川高専で力を入れ始めているのが、DXを取り入れた教育です。現在、様々な産業分野でデジタル化が進み、高専の教育でも専門分野の知識や技術の修得に加え、デジタルマインドとスキルも併せ持つ人材の育成が急務となっています。「近年、求人側の企業からも、専門分野に加え、デジタルに精通する若者を採用したいという意向が数多く寄せられています」と、冨田教授は言います。
 そのためには、専門分野に対してデジタル技術を取り入れてデータ分析などを実践する、実験・実習カリキュラムの高度化が不可欠です。そこで、同校では、文部科学省によって令和3年度に実施された「デジタルと専門分野の掛け合わせによる産業DXをけん引する高度専門人材育成事業」の公募に、事業名称「持続可能なインフラを支えるDXエンジニア育成」として申請。大学、高専など99校が申請する中、審査の結果、事業実施機関として採択された39校のうちの1校となり、補助金を得て、カリキュラムの開発・実施を推進することになったのです。

(左から)
石川工業高等専門学校
副校長(管理運営担当) 冨田充宏 教授
機械工学科 博士(工学) 穴田賢二 准教授


石川高専はDX人材育成のカリキュラムを3段階に分けて推進
クオリカの講演でKOM-MICSを知り実習授業への活用を打診

 石川高専では、カリキュラムを3段階に分け、各ステップの授業内容の開発を進めています。ステップ1では、数理データサイエンスなどDXの基礎を学びます。次のステップ2は、DXを各専門分野に応用して実践的なスキルを学ぶフェーズです。例えば、機械工学科が対象となる機械・製造分野では、学内に設置された実習工場に、遠隔操作型の工作機械とIoTシステムを導入し、「スマートファクトリー」の環境を整備。実習などで蓄積されたデータを活用した問題解決型の授業を実施することを目指します。
 さらに、ステップ3は対象が専攻科となり、人工知能の演習や実習を通して高度なデータ活用や深層学習演習を実施。産業DXを推進する企業へのインターンシップなども行い、DXによる新たな価値を創造できる人材の育成を想定しています。
 こうしたDX人材育成事業の一環として、学生への講演の依頼を申し込んだ先が、実際に産業DXを進めている地元企業のコマツです。コマツは依頼を受け、同社専務執行役員 CTO兼開発本部長の渕田誠一氏が、「コマツの『イノベーション&DX』」と題し、コマツとして取り組んだデジタル技術を活用した事業や将来展望について講演。さらに、コマツに対して機械工学科向けに講演を依頼したところ、講演を引き受けたのが、コマツで工場の生産性改善システム「KOM-MICS」の開発と運用を指揮し、現在、クオリカで同システムの事業責任者を務める、ビジネスイノベーション事業部副事業部長の名畑英二でした。
 KOM-MICSは、コンピュータで数値制御を行い自動的に工作物を制作するNC工作機械などの生産設備に接続するだけで、その設備の稼働率やタイムチャート(動作の時系列のグラフ)、出来高、工作機械の切削抵抗(切削時に刃先が被削材から受ける抵抗力)など様々なデータを収集し、見える化できるソフトウェアです。多種多様なデータを0.5秒周期でサンプリングして、パソコン上のビューワーでリアルタイムの稼働状況を確認することができます。ビューワーには、エアカット(工具の刃物が工作物を削ってない状態)の低減や切削抵抗の一定化など、生産性向上の改善による加工時間の削減を自動提案するアプリも内蔵され、同時に工具の使用状況を管理し、寿命を通知する機能も実装しています。
 機械工学科教員で、同校のDX人材育成事業を推進する役割を担う穴田賢二准教授は、講演を通じてこうしたKOM-MICSの優れた機能を知った時の印象を次のように話します。「主要メーカーのNC工作機械に簡単に接続することができ、様々なデータを収集できるKOM-MICSであれば、私たちがチャレンジしようとしているIoTシステムを導入したスマートファクトリーの実習授業に活かせるのではないかと直感的に思いました。それをコマツ、クオリカに相談したところ検討がスムーズに進み、最終的に3者で協定を締結して、DX人材育成事業を推進していく枠組みが整ったのです」。


  

教育の場でのKOM-MICSの活用

KOM-MICSで生産設備が見える化しデータドリブンな学習が実現
工具寿命とコストを考慮した一段レベルの高い学びも可能に

 今回の3者協定の主な内容は次の3項目です。まず1つ目が、「石川高専が進める文科省のDX人材育成事業の中で、コマツ、クオリカが協力してKOM-MICSを提供し、生産設備を見える化することによって、学生のスキルアップを図ること」です。
実は、“生産設備の見える化”は、石川高専の機械工学科の長年に悲願だったと、穴田准教授は説明します。「従来、学内実習工場のNC工作機械を用いたカリキュラムでは、切削速度や切込み、工具の角度などの条件によって加工状態が変化するなど“理論”を学んできました。また、学生が種々の条件を設定したプログラムを作成し、そのプログラムを入力して機械で切削して“作業”をする授業も実施してきました。しかし、そこに足りなかった要素が“数字”の把握です。つまり、理論を頭に入れ、作業を行っても、『作業中の切削抵抗の値はどれほどか』など数字が分からなければ、科学的に理解を深めることは難しくなります。代わりに、『音の変化を聞きなさい』『加工面の感触を手で確かめなさい』など感覚に頼った理解しか促せなかったのが実情でした」。
 そうした状況は、KOM-MICSの導入により大きく変化すると、穴田准教授は話します。「例えば、プログラムの条件を変えて、切削速度を上げると削り方が粗くなり切削抵抗の値が上がったり、逆に下げると削り方が細かくなり切削抵抗の値が下がったりすることが数字によって一目瞭然となります。すなわち、理論を基にプログラムを作成して作業を行い、結果を数字によって把握するというデータドリブンな学習が可能になるのです。数字の意味を分析して条件の改善を考察するなど、より学びを深めることもできます」。
 一方、工具寿命を通知する機能を活用することで、今までとは全く異なる観点での考察も可能になると言います。「従来、工具寿命とコストとの関係は深く考察してこなかったのが実情です。教育機関のため、作業の安全性だけを考え、まだ十分に使えそうな工具も早めに交換してきました。ただし、実社会に出ればコスト意識は、当然のことながら非常に大切になります。その点、KOM-MICSを活用すれば、工具寿命のデータを確認しながら、安全とコストのバランスを考慮したものづくりが可能になります。工具寿命を縮めないために最適な条件でプログラムを作成するという視点にもつながります。こうして、一段レベルの高い実践的なものづくりを学習できることは、KOM-MICSのメリットとして大きく評価している点です」。


  

今後の展開

DX人材を石川県内に広め、カリキュラムの全国横展開を模索
“デジタル”という武器を手に入れ新しいものづくりにも挑戦へ

 また、3者協定の2つ目の狙いが、「育成人材の地元企業へのインターンシップや就職などを通じ、培ったDXのスキルを石川県内に広めていくこと」です。具体的には、KOM-MICSを導入した県内の工場で生産設備の実データを学生が分析し、改善の提案などを行っていくことを想定しています。「インターンなどで学生が提案したプログラムが採用され、実際の工場の改善に役立つ可能性もあります。また、機械工学科の学生は生産技術の職種に就くケースが多く、生産設備の稼働データを読み解くスキルを活かせる場面は就職後も多いと思います。そうして、地元の実社会に貢献するDX人材を数多く輩出できればと考えています」(穴田准教授)。
 そして、3者協定の3つ目の項目が、「KOM-MICSなどを活用した教育プログラムを作り上げ、全国の高専に対して教育活用事例として広め、国内のDX人材育成への活用につなげること」です。「将来的には、年に1回、高専の教員などの関係者が集まる学会『高専フォーラム』の場で、学術発表する可能性も視野に入れています。そのためにも、コマツ、クオリカとは長期間にわたる継続的な関係を保持し、実際の工場におけるKOM-MICSの機能や事例、その他の様々な知見が得られることを期待しています」(冨田教授)。
 既に、同校の学内工場のNC工作機械には、KOM-MICSが接続され、データの収集が開始の状態になっています。今後、KOM-MICSを活用したカリキュラムが本格的にスタートする計画で、当初はクオリカから講師が派遣され、使い方やデータの分析方法をレクチャーする予定です。
 穴田准教授は、機械工学科の学生に開かれる未来を期待感を込めて次のように話します。「学生たちは、機械に関する専門知識に加え、KOM-MICSによって“デジタル”という武器も手に入れることができます。それは人材としての付加価値を上げるとともに、新しいものづくりの見方ができるようになることも意味します。そうした日本の産業に貢献できるDX人材を数多く育て、学生自身のキャリアにも世の中にも良い影響を与えることができればと考えています」。

導入を担当したクオリカ社員と一緒に

お客様のプロフィール

会社名
石川工業高等専門学校
所在地
石川県河北郡津幡町北中条タ1
創立
1965年(昭和40年)4月
学科在籍学生数
約1000人(男子学生7割:女子学生:3割)
専攻科在籍学生数
約40人
学校概要
機械工学、電気工学、電子情報工学、環境都市工学、建築の5学科を有し、令和3年度末までに約9000人の卒業生を輩出。文武両道の校風で北陸地区の高専体育大会では総合成績で16連覇中。ロボットコンテストでも優秀な成績を残している。

サービス・ソリューション

お問い合わせ先:ビジネスイノベーション事業部
TEL:03-5937-0777
FAX:03-5937-0802