課題
余分な在庫を減らすと生じてしまう欠品による機会損失
KPIは店舗とECの両方で購入する双方会員の増大
ワイシャツやスーツなどのビジネスウェア市場は、職場のカジュアル化やコロナ禍をきっかけに縮小傾向となっています。そのため、東京シャツでは、仕入れ量を適正化して、極力余分な在庫を減らす施策を推進しています。しかし、在庫のバッファを少なくなると生じるのが、機会損失の問題です。東京シャツのStore Sales部門 首都圏東部ブロック スーパーバイザーの髙橋健二氏はこう話します。「店舗の来店客のうち10%が購入に至っています。ですが、逆に言うと、9割が何らかの理由で購入していない。原因の一つが欠品です。せっかく購入意欲があるのに、サイズやデザイン、色がないため、一定の頻度でチャンスを逃しているのです。売り上げに加え、顧客満足度も下げてしまうこうした機会損失を防ぐことが課題でした」。
また、既存の顧客に対し、いかに購入頻度を高めるかも課題です。東京シャツでは、クオリカの小売専門店向け店舗・本部営業支援システム「SpecialtyQube」、POSレジ、CRMを既に導入し、実店舗会員とEC会員の一元管理を実現しています。そのデータを分析すると、店舗もしくはECのみを利用する会員の年間購入回数が1.7回なのに対し、両方で購入する双方会員は3.5回と、約2倍となっています。「つまり、双方会員を増やすことがKPI(重要業績評価指標)となります。大まかに言って、店舗では半分が会員登録しないフリーの顧客、3割が既存会員、2割がその場で会員になる方。そうした中、店舗で会員登録をより多く獲得し、ECに送客することがKPI達成には不可欠となっています」(同社E-commerce部門 部門長兼オムニチャネル推進部門 副部門長の加藤翔太氏)。そこで、同社では、システム化によって、こうした課題を解決することを目指したのです。
選定
ステークホルダーをまとめるクオリカの推進力に期待
先行して小規模実験を行い、業務の慣れと意識付けに成功
システム化では、店舗とECの欠品をカバーするために在庫を一元管理し、全体を巨大な在庫として共有しながら、どのチャネルからでもリアルタイムで在庫引き当てを行い、購入できるように設計しました。ベンダーに関しては、こうしたシステムを短納期で構築でき、同社の他のシステムを安定稼働させている実績もあるクオリカを選定。今回は、ECやアプリ、物流のシステムを手掛けている他社との連携も重要であり、クオリカに、それらのステークホルダーをまとめて、プロジェクトを推進する力があることも指名された理由です。
ただ、こうした新システムを導入する際、懸念されるのが、現場の混乱です。いくら良いシステムでも、実際に使うのは人(現場の販売員)であり、そこがスムーズにいかないとトラブルの原因になります。
そうした事態を避けるため、実施したのが、試し期間を設けることです。自社ECの導入前に、まずは東京シャツが出店しているECモール「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」の在庫と店舗在庫を一元化し、業務を小規模で実験的に行ってみたのです。「各店舗にはZOZOで引き当てられた商品の情報がメールで送信され、販売員は毎朝チェックし、出荷に回すのが日課となりました。同時に、販売員に来店客だけでなくECの顧客も相手にしている意識が芽生えたことも収穫です。こうして、業務の慣れと意識付けが本番稼働前にできたことが、プロジェクト成功のポイントだったと考えています」(髙橋氏)。
左から
東京シャツ株式会社
- E-commerce部門 部門長兼オムニチャネル推進部門 副部門長 加藤翔太 氏
- Store Sales部門 首都圏東部ブロック スーパーバイザー 髙橋健二 氏
- Support部門 情報システム部部長 富永裕樹 氏(オンラインにて)
導入と成果
在庫の一元管理で店舗とECの垣根がなくなり一体化
店頭では全ての在庫を手元に持つ“新しい販売”を実現
プロジェクトでは、ZOZOでのテスト運用を経て、自社ECと店舗在庫の一元化システムの本番稼働を段階的に進めていきました。最初にリリースしたのが、店舗在庫のEC販売への引き当てです。これによって、ECでの欠品を補うことができます。工夫した点が、ECで引き当てられた商品を、ECの倉庫を経由せずに、店舗から直接顧客に発送する仕組みを整えたことです。こうすることで、配送料と時間を削減できます。同社のECの倉庫は埼玉県にありますが、例えば、北海道の顧客がECで購入し、近隣の店舗で引き当てが行われることで、EC倉庫からの発送より早く商品が届くメリットがあります。
引き当てられた商品は店舗での受け取りも可能です。ECで事前に決済せず、店舗で商品を見てから支払うことができるため、全体の12%程度が店舗受け取りを活用されています。いずれの場合も、売り上げは店舗側に計上されます。「ECで購入する際、在庫がある店舗に受け取り先を指定すれば、その店の売り上げになることもポイント。こうした施策から、現場の販売員も顧客にECを勧めやすくなります。『顧客をECに取られたくない』という思いがなくなり、店舗とECの垣根がなくなることにもつながります」(加藤氏)。
次にリリースしたのが、店舗での接客でタブレットを使って、店にない商品をEC上で引き当て、その場で販売する仕組みです。従来、小規模の店舗はスペースの関係で置ける在庫は限られていましたが、これによって、販売員は手元のタブレットに東京シャツの全商品の在庫を仮想的に持ち、顧客に案内して客注(在庫を取り寄せて販売すること)を行うチャンスを手にできたのです。
「導入から間もない段階ですが、既にタブレットを使って客注に成功する事例が数多く出てきており、多い店では売り上げの10%を占めるほどです。成功店では、販売員が常にタブレットを片手に持ち、店頭に顧客が欲しい商品やサイズがなかった場合、すかさずECで探して案内し、購買につなげています。こうして接客の一つにタブレットを取り入れる“新しい販売の形”が徐々に浸透しているというのが現状です」と、髙橋氏は話します。
(左)ECサイト画面 (右)客注画面
今後の展開
在庫の一元化によって「最後の一枚」まで売り切る
タブレットを使って“攻め”の提案型接客も展開
在庫のバッファが少ないというピンチの状況でしたが、システム化によって一元管理を達成し、全ての在庫を手元に持つことで、逆にチャンスにつなげているというのが、東京シャツの今回の事例です。サイズが大きくて売れず、店の倉庫の奥に眠っている商品も、求めるユーザーがECなどで注文することで引き当てができます。こうして、「最後の一枚」まで売り切ることが可能になる点も、物流と店舗・EC在庫の一元化によるOMO(オンラインとオフラインの融合)を成し遂げた成果と言えるでしょう。
今は、店舗にないサイズなどをECで探して提供するなど“守り”の接客でタブレットを使うことが多いですが、今後は積極的に“攻め”の武器として使うことも視野に入れています。「事前にECで売っている商品を頭に入れておき、顧客との会話の中で、店頭にはないデザインや色違いのシャツをタブレットで見せ、顧客が選んだシャツに合うネクタイを提示するなど、提案型の接客に使っていくイメージです」(加藤氏)。アパレル業界でOMO施策が模索される中、東京シャツはその先駆者として、今後も注目を集めることになりそうです。
導入を担当したクオリカ社員と一緒に
お客様のプロフィール
- 会社名
- 東京シャツ株式会社
- 所在地
- 東京都台東区駒形1丁目3番16号 駒形プラザビル 7F
- 設立
- 1949年10月17日
- 資本金
- 7,500万円
- 事業内容
- ビジネスシャツ専門店を163店舗展開し(FC、EC含む、2020年12月末時点)、国内トップクラスの販売実績を誇る。1997年から製造小売(SPA)に取り組み、原料調達、素材製造からリテールまでの一貫体制を確立。
サービス・ソリューション
お問い合わせ先:サービスクリエーション事業部小売ビジネス部
TEL:03-5937-0760
FAX:03-5937-0803