課題
セルフイノベーションの一環で保全員の業務改革に着目
IoT化し、見て回らなくても点検できるシステムを模索
新関西製鐵は鉄スクラップをリサイクルのために集めて溶かし、鋼材を再生する電気炉メーカーです。
顧客の要望に応じた形、大きさの平鋼(板状の鉄)を生産し、国内平鋼市場のシェアはトップクラスとなっています。
しかし近年は人材不足という問題を抱えています。解決するためには、職場環境を改善して採用面でのハードルを下げると同時に、既存の人材の作業を効率化し、生産性を高めることが必要です。同社では個々の社員が働き方や業務改革を進める「セルフイノベーション(SI)活動」を展開し、特にAIやIoTなど先端技術を活用してSIを推進する意識が共有されていました。
そうした中、着目されたのが、製造ラインの点検やメンテナンス、修理を担う保全員の業務改革です。保全員は製造ライン稼働時30分の巡回点検を1日に5回行っており、その都度、他のコアな作業を中断して点検する手間が発生。「人が見て回らなくても済むように、点検を自動化し、現場の負担を軽減することは喫緊の課題でした」と、同社執行役員 星田工場長の狭間友希氏は振り返ります。また、人の目視による点検にはどうしても抜け漏れのリスクがあり、実際、以前には製造ラインに設置されたベアリングの異常を見逃し、焼き付いてしまったトラブルもあったのです。
そこで、新関西製鐵が相談を持ち掛けたのが、主に鉄鋼・化学メーカーとの取引が多く、全国に拠点を構えてモーターを中心とした設備の販売やリニューアル事業を展開するドーワテクノスです。ドーワテクノスでは、設備用モーターの劣化を自動監視するサービス「リモータ・プロ」の提供開始を発表しており、新関西製鐵が必要としているソリューションとまさに合致していると判断したからです。
※株式会社ドーワテクノス:本社は北九州市。鉄鋼・化学・機械などの製造業や官公庁の顧客に向け、モーターなど産業機器の販売から設備の導入、メンテナンス、更新まで、現場密着型のコンサルティングセールスによって総合的なソリューションとサービスを提供する。
新関西製鐵株式会社
取締役執行役員 製造管掌 向博司 氏
執行役員星田工場長 狭間友希 氏
設備部長 大賀真平 氏
設備部星田工場設備グループマネージャー 松浦樹 氏
(右側)
株式会社ドーワテクノス
営業企画部部長 足立裕史 氏
選定
EnOcean無線とCareQube+を連携させた監視システム
様々なデバイスから12分ごとの詳細なデータを確認可能
リモータ・プロは、ドーワテクノスが各種センサーとクオリカの「CareQube+」を連携させ構築したデータ監視システムです。センサーはEnOcean無線を採用し、ソーラーパネルやモーター駆動電流などで発電するエネルギーハーベスト(自己発電)で稼働するため、電源供給用の配線が不要。小型で顧客の希望する場所に取り付けやすいのも利点です。
システム構成では、まずモーターに設置したセンサーユニットによって、電流や温度、振動などを計測し、そのデータをEnOcean無線で受信機に飛ばします。データは受信機に接続されたモバイルルータにより、3G回線を通じてCareQube+の専用クラウドに上げられ、インターネット経由でタブレットやPC、スマートフォンからCareQube+に蓄積されるデータを閲覧できる仕組みです。
新関西製鐵では選定過程で、他社からもシステムを提案され、検討。その中で最終的にリモータ・プロを選んだ理由を、同社設備部長の大賀真平氏はこう話します。「当社設備は間欠運転が多いため、短い間隔でのデータ取得を目指しました。リモータ・プロのセンサーは12分に1回のデータ送信でも5年以上電池交換が必要ありません。頻繁に測定できるのは低消費電力通信かつ自己発電を行えるEnOcean無線通信の技術を使っているからです。さらに、他社が特定のPCからしかデータを見られないのに対し、リモータ・プロはクラウド上でデバイスを選ばず閲覧可能。これらの理由から導入を決断したのです」。
導入と効果
外部のモーター診断士も故障前に異常を検知しアドバイス
製鉄所のシビアな環境でも長期にわたり安定稼働
導入のプロセスでは、2年間、星田工場でPoC(実証実験)を実施。第1段階で負荷電流センサーと温度センサーを取り付け、第2段階で漏れ電流センサー、第3段階でモーターの監視・診断で重要となる振動センサーを設置するなど、段階を踏んで進め、課題の洗い出しと対応に取り組んできました。「当初はEnOcean無線の特性を十分理解できていませんでしたが、センサーの微妙な位置変更で通信が大きく改善されることを学びました。データも最初は平均値を取得していましたが、インシデントを認知するためには最大値を見るべきと考え変えたところ、変化を的確に把握することが可能になったのです。こうした変更をドーワテクノスやクオリカは迅速に対応し、PoCをスムーズに進めることができた点は、非常に大きなポイントだと考えています」(同社設備部 星田工場設備グループマネージャーの松浦樹氏)。
リアルタイムに蓄積されていくデータに関しては、週報、月報の形に自動的に加工されたグラフを確認することで、一定の期間での変化を察知することができます。これらのデータはクラウド上で保管されるため、新関西製鐵が社内でチェックするだけでなく、導入したドーワテクノスやモーター修理を担当する業者も確認が可能。従来は機器が故障してから業者を呼ぶのが一般的でしたが、リモータ・プロを導入することで、そうした事態に至る前に、関係業者が異常を検知し、保全予防のアドバイスやコンサルティングも受けられるようになるわけです。「他社が提案していたオンプレミスのシステムであれば、実現できなかったこと。クラウド化されているCareQube+の優位性を実感しています」と、松浦氏は言います。
加えて、新関西製鐵が指摘したのが、製鉄所というシビアな環境下で、トラブルを起こすことなく稼働したリモータ・プロの優れた安定性です。「高温であるだけでなく、粉じんや汚れなどがある中で、2年間機器類に故障が無く、データを継続的に取れたことは高く評価できる点。PoCは非常に満足ができるものであり、この結果を踏まえて、本格的な導入フェーズに移行することに決めたのです」(松浦氏)。
今後の展開
本格的な導入フェーズに移行し、水平展開も図る計画
現場の負荷軽減に加え、機器のタイムリーな更新も実現
新関西製鐵では、本格的な導入フェーズに入り、まずは製造ラインの主要パートである圧延機(ミル)を動かすミルモーター18台に対し、リモータ・プロのセンサーを設置。今後は予備品がない高価なモーターをはじめとする他のモーターや、もう一つの生産拠点である堺工場への水平展開も図っていく計画です。「点検の自動化によって、保全員の作業時間は大幅に削減。モーターの状態監視が常時可能になるため、生産の安定性にも寄与することでしょう」と、期待を寄せます。主なモーターへの設置が完了して保全員の巡回点検が不要になれば、年間で630時間の削減となり、余剰時間は製造ラインのメンテナンスや故障の対応など、付加価値の高い業務に有効活用することが可能になります。
また、次のように話します。「今まで、モーター更新のタイミングを見極めることは難しかったのですが、劣化をデータで追えるようになることで、機器を限界まで使いながらタイムリーにリニューアルすることが可能となり、この点も大きなメリットと考えています」(同社取締役執行役員 製造管掌 向博司氏)。
お客様のプロフィール
- 会社名
- 新関西製鐵株式会社
http://www.shinkansai-steel.co.jp/
- 本部
- 大阪府堺市堺区塩浜町5番地
- 設立
- 平成13年10月1日
- 資本金
- 1億円
- 事業内容
- 電気炉による製鋼および圧延鋼材の製造・加工・販売。
昭和8年創業の臨港製鐵と昭和19年設立の関西製鋼が合併し、
平成13年に新関西製鐵株式会社を設立。
本社・堺工場、星田工場の2拠点で事業を推進。
サービス・ソリューション
お問い合わせ先:営業統括本部 営業企画部
TEL:03-6441-3673
FAX:03-6441-3674